
西陣の路地の角を曲がると、車がやっと一台通れるくらいの細い路の奥から
コンコンと木型を叩く、規則正しい音が耳に届く。
この路の先にあるのは、靴作家・野嶋孝介さんの工房「吉靴房」。
着物の帯地や金箔・藍染などの伝統的な素材を、
カラフルなヌメ革と組み合わせて
ひとつの靴の中に独自の世界観を成立させる――。
そんな、野嶋さんの一風変わった靴作りは、
いま、徐々に大きな反響を呼びつつある。
国の歴史、京都の歴史、自身の暮らしの過去と現在、そして未来。
制作にあたって野嶋さんは、長い、長い時の流れに思いをはせるという。
だからだろうか。野嶋さんのつくる靴は斬新なのに、
どこか懐かしい気持ちを呼び起こす。
西陣の陶芸工房の一角で、いま、週に二回の「靴教室」が開かれている。一回あたりの講座参加者は3名ほど。生徒さんたちは、工房に到着したらまずは二言、三言の挨拶を交わし、やがて各々の作業に没頭する。その中で、各々の作業に気を配りながら丁寧なアドバイスを投げてまわるのが、靴作家・野嶋孝介さんだ。
野嶋さんが家族とともに京都に移り住み、本格的に作家活動をスタートさせたのは2006年2月のこと。京都で陶芸家として活動している親類を頼って陶芸工房の一角を借り受け、そこに靴作りのための道具を運び入れた。オープンアトリエとして、作業場と店舗、両方の役割を兼ね備える工房「吉靴房」のスタートだった。
野嶋さんのこの工房は、路地に面した部屋にある。棚には商品のラインナップがずらりと並ぶ。路地からは大きな窓ガラスを一枚隔てて、作業中の野嶋さんの手元すら見えるほど。偶然通りがかる人たちも、時折足を止めて工房をのぞき込む。作りかけの新作を指して「これ、なあに?」なんて声もかかる。そうすると、野嶋さんはしばし仕事の手を止めて、飛び入りのお客さんのためにミシンの前から腰を上げるのだ。
「フラッとやってきて座って、僕と話をしてくれる方もいるし、じっと黙って僕の作業を見ている方もいる。毎朝顔を合わせる人もいれば、他府県からわざわざ僕の靴に会いに来てくださる方もいる。みんないい方ばかりですよ。僕、お客さんには恵まれていると思うんですよね」。そう言って、野嶋さんは笑顔を覗かせる。
2006年11月現在、すでに、吉靴房の靴には注文が殺到している。野嶋さんがこれまでに作りためていた作品も、品切れが続出。オーダーメイドは4か月待ちという人気ぶりだ。
その魅力について、靴教室の生徒さんはこんなヒントをくれた。
「野嶋さんの靴って、真っ当に履きやすいんです。それなのに、色も、形も、履き心地だって売ってる靴とぜんぜん違う。だから、どうやって作ってるのかなあって不思議だったんですよ」。